【イベントレポート】サウンドと世界観を転換する。アーティストの個性を新たに生み出すプロデュースとは

音楽プロデューサーのCHRYSANTHEMUM BRIDGE、保本真吾氏による、ソニックアカデミー・サロンをレポートしていこう。テーマは「アーティストの個性を引き出し、新しいステージに送り出すためのプロデュース術」。これまでSEKAI NO OWARIやゆず、andropなどさまざまなアーティストを手掛けてきた保本氏のプロデュース・ワークについて、多くの人が興味を持っていたようで、本セミナーは60名を超える会員が集まった。

まず保本氏が語ったのは、自身がプロデューサーになった経緯、そしてプロデューサーという仕事について。楽曲のアレンジを中心に請け負う「サウンド・プロデューサー」とは異なり、アーティストと共に楽曲を完成させていく一連の作業においてのジャッジメントを、責任を持って行う立場であることを強調していた。つまり、失敗すれば次は仕事が来なくなることもあるという。しかし、アーティストとより深く向き合うことを大事にし、そういったことができるプロデュースが醍醐味でもあると語る。

そして保本氏が行う楽曲プロデュースの一連のプロセスについて、以下のような流れを追いながら具体的な解説が行われた。

1)レコード会社 or 事務所からプロデュースの依頼が来る

最初にデモ曲が何曲か送られてきて、その中からプロデュースしたい楽曲を選ぶ。保本氏にプロデュースを依頼をする理由の一つとしては、“サウンドをもうワンランク上げたい”“世界観を変えたい”ということが多く、それがシングルになることがよくあるそうだ。勝負に出たいときに保本氏が呼ばれるということだろう。



2)アーティストと会い、楽曲や世界観の方向性を確認する

初めて会う状態では、お互い本音で話すことはなかなか難しいが、短い時間でもできるだけ本音を話してもらえるよう、常に意識していると語る。そうしてもらえるように意識していることの1つとして大事にしていることは、アーティストの言うことを一切否定せず、すべてを受け入れることだという。


3)アレンジ作業に入り、まずは1コーラスを作って、アーティスト、スタッフに聴かせる。


4)意見をフィードバックしてもらい、フル尺を作り上げる。

ここではSEKAI NO OWARIの「RPG」をプロデュースしたときのことについて、具体的な解説が行われた。この曲は最初にメンバーからデモを聴かせてもらったとき、保本氏は自分なりにもっと違う方向でアレンジできるのでは?と感じたそうだ。そこで保本氏は自身で新たなアレンジを施し、メンバー、スタッフにもともとのデモと聴き比べをしてもらったという。さまざまなディスカッションがあり、最終的にはメンバー、スタッフとも、新しいことにチャレンジしていくことに踏み切り、保本氏のプロデュースするアレンジを支持したという。結果、同楽曲はヒットを記録し、バンドにとっても大きな転機になったそうだ。プロデュースをするということは、自分がリスクを背負えるかどうかが大事だと語る。

また保本氏は、通常のアレンジ作業をする際は、2パターン作っていると話す。メンバーに選択肢を持たせることで、いろいろなアイディアが出てくることがあるそうで、そこでさまざまなフィードバックをもらってから、フル尺でのアレンジを仕上げていくという。

5)デモを元に、メンバーとプリプロ作業

プリプロ作業は、一連の作業の中で特に大事にしていると保本氏。ここをしっかり行わないとレコーディングで悩んでしまうため、イメージを形にするために、きちんと物事を決めておくそうだ。昨今は制作費も少なくなっており、スタジオ代もなかなか多くは出せない現状があり、そういった側面もあると語る。このプリプロ作業をいかに緻密に行うかで、レコーディングの精度が決まるので、プロデュースする上で一つの勝負ポイントになるという。

6)レコーディング(楽器→歌の順番)

プリプロでフレーズなどはしっかり決めているので、レコーディングでは、マイクやエフェクターなど、さまざまな実験しながら録音する時間を多く取ることが、保本氏の場合は多いという。パソコンの普及で、簡単にさまざまな音を選べるが、自分の個性のある音を作る方法の一つとして、マイクで録ることを提示していた保本氏。ソフト・シンセなどでも、一度外に出してマイクで拾うことをアドバイスとして語っていた。そういった実験をすることで新しい音を作り、アーティストにも個性を持たせることができるという。そして、そういった曲作りのプロセスなどをインタビューなどでも語ることができるため、アーティストにとっても楽曲を多くの人に聴いてもらうための武器の一つになるということだ。

7)エンジニアによるミックス作業

保本氏は、プリミックスと本チャン・ミックスの2段階方式で行っている。予算がかかってしまうところだが、必ずこの方法を採っているそうだ。まずプリミックスが完成したら、メンバー/関係者に確認してもらい、それらを取りまとめたものをエンジニアに伝え、本チャンのミックスへ。それを修正したものをメンバーらと共にスタジオで確認を行っているという。自宅などの環境とスタジオでは差異があるので、それを極力なくすためにこの方式を採用しているそうだ。また、このミックス作業が売れるがどうかのターニングポイントになるという。特に意識しているのは、感情に訴える音を作れるかどうか。多くの人に受け入れられるための音作りは、このミックス作業で決まると強調していた。

8)マスタリング

マスタリング・エンジニアに関しても、保本氏が責任を持ってアーティストと選んでいる。特に大事にしているのはロー感ということで、それをしっかり仕上げてくれるのは、海外エンジニアが多いと語る。そして、なぜこのエンジニアがいいのかということもメンバーとディスカッションをして、最終的にエンジニアを決めているそうだ。

予算がないからといって、お金をかけない制作スタイルを続けていると、音楽業界は完全に終わってしまうと警鐘を鳴らす。どこにプライオリティを置くのか、しっかり見据えてお金をかけるところはかけ、削るところは削って、どこで回収するのか、そういったことをみんなで考えて、新しい音楽の売り方を作っていくのが健全ではないかと語る。

プロデューサーはこういった金銭に関しても考える立場であり、予算内でどれだけ良いものを作るかというのも、手腕の一つだと語る。またプロデューサーだけでなくアーティストを目指す人も含め、自分でできることはするという意識を持つことが大事だと言う。保本氏自身も、今の状況が同じように続くとは考えていないと語り、10年後も第一線で活動できるように、常にいろいろなことを模索しており、このソニックアカデミー・サロンも、自分からの一方的な講義ではなく、新しい音楽の作り方を生み出す場として、来場者同士が交流を持ち、またそのアイディアを自分たちメンターにもフィードバックしてくれたら嬉しいと話していた。そして、みんなで楽しく音楽を作っていくことで、未来の音楽業界にも良い影響があるのではと、締めくくっていた。

そして、現在保本氏がプロデュースをしている新津由衣が登場して、二人の実際のやり取りなどが語られた。最後には新津の楽曲「愛のレクイエム」を2人でセッションし、この日のすべてのプログラムは終了となった。

終了後は保本氏に個人的にアドバイスをもらいたい人で長い列ができていた。保本氏が語っていた、ソニックアカデミー・サロンの目的の一つである交流がさっそく生まれており、本セミナーの来場者が、高い意識を持って参加しているのだと感じさせられる一幕であった。


会員申し込みへ

about

ソニーミュージックによる会員制コミュニティサロン

SONIC ACADEMY SALONとは



  • Mentor
    第一線で活躍するクリエーターが
    メンターとして参加
  • Event メンバー限定イベント
    多数開催
  • StudyGroup メンバー同士で
    交流や勉強会ができる

この記事を書いたのは

ソニックアカデミーサロン
編集部