【イベントレポート】「トム・ロード・アルジ スペシャルセミナー!」

「トム・ロード・アルジ スペシャルセミナー!」



今回のソニックアカデミーサロンは、会場を「Sony Music Studios Tokyo」に移して、世界的に活躍するミックスエンジニアが自身のヒストリーや手掛けたアーティストの音源を交えて語る「トム・ロード・アルジ スペシャルセミナー!」を開催。ゲストに迎えた伊藤一則氏(A-sketchプロデューサー)と松尾順二氏(Sony Music Studios Tokyo)とともに、なぜミックスエンジニアになったのか?兄クリス・ロード・アルジとの関係、ミックスの極意、音楽に対する使命とは?といった質問に答えながら、自身がミックスした代表曲を例に挙げて解説する至極の90分が展開された!



◆照明オペレーターからスタートしてミックスエンジニアへ経るヒストリー



母親は世界的ジャズピアニスト。そんな音楽的な家庭の6人兄妹の末っ子として育ったトム・ロード・アルジ。 兄のクリスとともに、地下のスタジオにあった母親の4トラックのマルチレコーダーをおもちゃ代わりに遊んでいた。それが音楽人生の始まり。16歳の頃から照明オペレーターとして働いていたトムは、あるツアー中にライブエンジニアが病欠で「FOHできるか?」と突然言われてやってみたのがレコーディングエンジニアになるきっかけだった。小さい頃から卓に触れていたトムはそんな突然な出来事にも対応できてしまい、それ以降は照明をやめ、“音の世界”にのめり込んだそう。その後「ユニークスタジオ」というスタジオで働いていた兄クリスから声をかけられ、クリスのアシスタントに。トムがレコーディング、クリスがミックスというスタイルを基本に仕事をしていたが、あるときトムがたまたまクリスから譲り受けた仕事でミックスしたものがグラミー賞を受賞。そのときからトムは“ミックスエンジニア”に専念することになった。

◆トムが向き合う現代音楽ツールとしてのPro Toolsとお勧めのプラグイン



現在もSSLを所有しているトムだが、15年前からPro Toolsに積極的に慣れるようにしているそうだ。なぜならアナログの卓とアウトボードだけを使ったミックスでは、せいぜい音の色が20色くらいしか表せなかったが、PCを使うことで250種類近く増えたように思えるからだそうだ。トムのミックスはSSLを使っているから良いのだと思われがちだが、機材ではなく音楽に対する認識、自分の音の聞こえ方のほうがむしろ大切だとトムは熱く語る。実際それをPro toolsの画面を見せながら説明してくれた。

トムは国内外の様々な依頼に対応するために相当量のプラグインを持っている。ただそれは多くのプラグインを扱うことに意義があるということではないとトムは語った。「お勧めのプラグインは?」という参加者からの質問にトムはゆっくり何度も同じようなことを繰り返した。「とにかく自分が使いやすいモノ、すぐにアクションを起こせるモノを選ぶことが重要。実際の作業では自分が使いこなしているプラグインで、即座に自分の頭の中でイメージしたものを表現することが重要だから、いろいろプラグインを試すよりも、コンプ、EQ、エフェクトそれぞれ3つくらい選んで、それをいかに熟知するかが大切。“It’s not gear, it’s your ear”まさに自分の耳と頭を使いプラグインを手足のように使えるようになれ」とトムはそう力強く説いた。

◆トム・ロード・アルジ ミキシング「日米名曲」解説レポート

①SUM41「Fatlip」

20年前にSSL4000の卓でミックスした曲。それをプラグインだけで再現したものを聞かせてくれた。 当時、兄クリスと同じくコンプレッション使い過ぎとよく言われていたトム。 プロデューサーにメーターで決めるのではなく耳で聞いて意見して欲しかった彼はメーターにティッシュを被せてコンプレッションのかけ過ぎを指摘されないようにしていたという。 しかし、コンプレッションをエフェクトとして使うことをこの兄弟が築き上げたスタイルである。 このスタイルは実は今のエンジニアと比べるとそれほど変わらないというから驚きだ。



②ONE OK ROCK「Skyfall」 (東京ドームでのライブ映像より)

現在いくつかの日本のバンドもミックスの担当をしている。その中でも代表的なのがONE OK ROCKだ。 ONE OK ROCKについてはアルバムやライブのレコーディングでミックスをやっている。 ライブハウスとは異なる東京ドームという特殊な場所で80本あるマイクをどうまとめるか。 それをラフミックスとファイナルミックスで聴き分ける。



③ONE OK ROCK「Wherever you are」 (東京ドームでのライブ映像より)

今や結婚式の定番曲となっているこの曲。この曲は後方にサブステージがありそこで演奏した。 PAのスピーカーとステージが100mくらい離れているため、音が遅れて聞こえてしまう。それをいかに処理するかが大変だったという。



④ RADWIMPS「前前前世」

トムは歌詞の内容を説明してもらうのではなく、演奏の印象から感情を読みとって表現したという。 この曲は実は前半と後半で違うドラムを2セット使っており、どう統一感を持たせるかにこだわりがあった。 曲の終わりには宇宙に消えていくイメージでフェードアウトしながらspring reverbを重ねて使用。 リバーヴがかかるビフォーアフターを比較して分かりやすく説明してくれた。



⑤ 浜田省吾「マグノリアの小怪」
レコーディングエンジニアの松尾順二氏が登壇。
松尾氏がレコーディングし、トムがミックスを担当していた。
松尾氏がトムにラフミックスを渡す際には、素材の音源をまとめて整えて渡すのではなく、メンバーの音をバラバラに録った後に、メモ書きだけをつけて渡す。そこからトムが読みとって理解し作業する。そこが他の日本のエンジニアとは違う部分だという。
また、トムは松尾さんのように分かりやすく素材を渡してくれることがとても重要だと言う。余計なものを取ってファイル名や記号などを分かりやすく簡潔に統一してくれてあるから、クリエイティブな作業に集中できる。いかに集中できるかはとても大切なことだと言う。ミックスを他の誰かに依頼する時には、エンジニアはそういうことにも注力したほうがいいとトムは言う。


⑥ THE ORAL CIGARETTES「BLACK MEMORY」

実はトムが作業をする卓にはどのチャンネルがどの音になっているかなど、何も書かれてない。それはチャンネルのレイアウトはどんな曲をやるときもいつも同じにセッティングしてあることで、何がどこにあるかを考える時間を割かずに、いかに音楽の感情にフォーカスを当てるかに重きを置いているためだ。 この曲もそうだが時間が経ってもどこに何があるか身体が覚えているので同じミックスが出来る。 レーベルやトラックの名前も分かりやすいように全て簡単にした上でミックスに臨む。 兄クリスも「バランスをとることに専念する、それがミックスだ」と言っていたという。



◆トム・ロード・アルジの使命「I’m here to serve the music」

ミキシングはクリエイティブなモノなので自分の頭で鳴っているイメージをいかに表現できるか。 そこが大切だという。伊藤氏も松尾氏もそうだがエンジニアは音楽の時代の流れについて行かなければならない。スマホで音楽を聴く現代においてどれだけ人を感動させられるか、それが課題だという。 今回のサロンでトムは「I’m here to serve the music」(音楽に従っていかにそれを活かすか「音楽」に仕えるためにここにいる)と何度も口にしている。楽曲の良さを損なわずにいかにそれを活かすかを考えて彼はミックスをしているのだ。 ある種感覚的な部分ではあるが、数字やメーターにとらわれがちな現代人において、自分の耳を信じて良いと思ったものを提供する彼の手法を参加者にはぜひ参考にしてもらいたい。




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この記事を書いたのは

ソニックアカデミーサロン
編集部