【イベントレポート】いしわたり淳治に聞く「生きた作詞」の考え方


いしわたり氏がこれまで手掛けてきた数々の楽曲を題材に、発注に対してどのような思考をし、歌詞に落とし込んでいったのか、その実際のプロセスを本人が解説。また、いしわたり氏が「これはすごい!」と驚愕した歌詞についての解説やエピソードなど、普段聞きたくても聞けなかった話を存分に語ってくれた。





Little Glee Monsterの歌詞制作について


いしわたり氏とLittle Glee Monsterが初めて出会ったのは、まだ彼女達がグループになってすぐの頃。

制作チームとしては、グルーヴィーな曲もちゃんと歌えるグループとしてデビューをさせたく、モータウンサウンドのオマージュというのが裏コンセプトだった。

デビュー曲の制作中、ゴスペル調のトラックにリズミックな感じを失わない歌詞の乗せ方のできる人を探しており、最終的にいしわたり氏に行き着いたという。


まだデビューもしていない真っ新な彼女達に、どの様な歌詞がマッチするのか、まずは本人達にインタビューするところからスタート。

2時間ほどとりとめもない会話をしたが、若い子が考えていることってこんなことなんだ!と驚きと発見がたくさんで、その日は彼女達からシャワーの様に言葉を浴びて帰ったそう。


その後出来た曲が「HARMONY」というインディーズデビューの曲だった。

中高生にとって毎日の主軸はやはり学校。海外ドラマ「Glee」の様なスクールデイズ感を「HARMONY」に落とし込むことになり、その際子どもたち目線で書くとやぼったいものになってしまうので“ほんのちょっと上の景色”をきれいに書いてあげることを意識した、といしわたり氏は語る。

その後も、「放課後ハイファイブ」「NO!NONO!!!」「青春フォトグラフ」など、スクールデイズを描く楽曲を多数制作。「青春フォトグラフ」はいしわたり氏にとって初めて手掛ける卒業ソングでもあり、依頼を受けたときは「引き出しがなくてヤバイ!」と焦ったとのこと(笑)。

いしわたり氏の作詞法としては、まずはサビから作り、サビが一番盛り上がる様に、ABで説明を加えていく。タイアップがあり、明確なオーダーのある楽曲の方が、分かりやすい答えがあってパズルをやっている感覚で楽しく作詞ができるそう。


いしわたり氏いわく、自分は理系で、高校時代、4コマ漫画の切り抜きに、200文字で設定・ストーリー・面白みをレポートに書くというのが国語の授業だった。その鍛錬が今に活きているのかもしれない、とのこと。


確かに、5分でストーリーを描ききらなければいけない作詞という作業には、情報を端的に人にわかりやすくまとめて伝える、という国語の授業が活きてきそうだ。



ソニアカサロンでもお馴染みの社会人バンド「BlueHairs」の「桜唄」について


すでに出来上がっていた「桜唄」をいしわたり氏に「不倫の歌」、さらにはデュエットソングにしてくださいと発注。


いしわたり氏がこの楽曲を初めて聞いた時、“歌詞の世界がぼんやりしている”という印象を受けたそう。

サビは曲の根っこの部分。なので、サビはそのまま生かし「不倫と決別する日」に設定を変え、“やめるという決意の瞬間”を切り取った楽曲に方向転換した、と語る。


不倫が始まった日、もしくは終わる日が一番温度の高い瞬間なので、その温度感を大事にしたとも言う。


ここで、いしわたり氏が作詞の極意を教えてくれた。


歌詞には聞き手の参加意識がとっても大事。例えば「心の炎が~」と言われてもその炎は誰も確認できないことであり、そういう自分しかわからない描写は絶対にしない。


でも伝えたい。そこをうまく書けたら勝ちだと思う。


みんなに当てはまるように書こうと思って書いた曲は、逆にみんなに当てはまりにくいもの。「私の彼は左利き」という様な、当てはまる人の確率が低い言葉でも、その一言があるかないかで、結果的に“私の歌”という参加意識が変わってくる。


歌詞を書くにあたって、どれをとってどれを捨てるかはとても大事。

と教えてくれた。


実体験ではなく想像上で書いた歌詞は、無意識に他人目線で見た自分を表現する言葉を使いがちになり、そこでどんな言葉を取捨選択するか、さらにはどんな瞬間を切り取るのか、それによって曲の熱量や参加意識も変わってくるというのを、常に意識して作詞をしなければならないのだ。




いしわたり氏が思う“この歌詞すごいぞ!”について


いしわたり氏は下記2曲を選曲。


TAYLOR SWIFTSTAY STAY STAY


Meghan TrainorTITLE


まず「STAY」について。

STAY」は日本語で「そばにいて」という誰にでもあてはまる歌詞がサビには乗っているが、そこまでのストーリーの描き方が非常に良くできているとのこと。彼と彼女のキャラクターから二人の関係性まで、最小限の言葉とエピソードで描き切っている、とっても良くできた歌。


次に「Title」。

Title」は、サビで<Title=彼女という称号>を頂戴、と言っているだけの曲なのだが、頭から聞くと彼女のキュートさがものすごく伝わる楽曲。


「好き」という気持ちを違う表現で出来るとすごく強みになる、といしわたり氏は語る。


洋楽の歌詞を、対訳を見ずにミスリードしても良いから一度自分なりに訳してみると、また違う曲が出来上がり面白い、とアドバイスをくれたので、みんなもぜひ一度やってみよう!




最後に、参加者からの質問


「普段無意識でやっている習慣や、意識的に感性を保つ方法はありますか?」との質問に対して、自分以外の人生の経験を、映像として捉えるのに映画はものすごく良く、映画は本当によく見ます、とのこと。


その際に、主人公目線やストーリーに重きを置いて映画を見るのではなく、例えば、主人公の隣に住む10代の女の子の目線で見てみる、とか、色んな登場人物の目線で見てみるといい。そうすると、自分の頭の引き出しの中に色んな映画の登場人物が出来て、例えば、40代未婚女性を描く曲の発注が来たとしても、あの映画のあの人のことだな、と想像しながら書くことができるらしい。


参加者からの質問はまだまだ続いたが、時間となってしまい止む無く終了。

いしわたり氏流の作詞法を存分に吸収することのできた貴重な1時間半となり、参加者も大満足なプログラムとなった。





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この記事を書いたのは

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