ONE OK ROCK等を担当するPAエンジニア、平川正紀によるサウンド・メイキング・セミナー。平川氏がPAの道に進んだ経緯を始め、ライブでの日本と海外の音の出し方の違い、プレイヤー(演者)とオーディエンス(聞き手)に最高のサウンドを届ける技と考え方、そしてそのノウハウを解説いただきました。
◆学生アルバイトとしてのPA時代
洋楽が好きでとサッカーが得意だったという平川氏は四国の高校を卒業後、東京にある東邦学園音響専門学校へと進学。その理由はなんと”サッカー選手になりたかったから”だという。ただ1年生の夏に体験した音響の短期アルバイトがきっかけになって、本格的に音響の仕事に興味を持つようになったのが平川氏のその道の始まりだった。学生時代には既にステージマンとして様々なアーティストやバンドのツアーに明け暮れ、その経験を積み重ねていた。
因みにPAの現場は3人で仕切るのが基本。(もちろんライブハウスなどではこの限りではありません)
ステージマン:楽器やマイク等の機材セッティングを担当
モニターマン:バンドの出すステージ上の音のバランスを調整する
ハウスエンジニア:会場全体に流れる音のバランスを調整する
卒業後、ヒビノ株式会社に入社した平川氏はHOUND DOG、泉谷しげる、BUCK-TICK、X JAPAN、矢沢永吉、など数多くのライブのPAを担当して現在に至っている。
◆バンドはリハーサルスタジオできちんと音をセットしてLIVEに臨むべし
「リハーサルスタジオでは出来ていたのにライブ本番では出来なくなってしまう」という経験はステージに立ったことがある人なら身に覚えがあるのではないでしょうか。その原因は「ギターばかりが目立ってしまい全体の音のバランスが取れていないケースが多い」と平川氏は指摘する。サウンドの要となるドラムにボリュームの基準を合わせて他の楽器の音作りをする。平川氏はそれが本来の姿だと言う。そこが理解できていないと、各々のプレイヤーが自身の楽器の音量を上げ始め、その結果、全体的にただ大きな音になってしまい、バランスがおかしくなる。そんな負のループに陥ってしまいがちとなる。さらに、バンドのフォーメーションが変わるだけで音のバランスが崩れてしまうのだそう。そのため、平川氏は「リハーサルスタジオの段階で本番と同じボリューム、同じフォーメーションで行うことが望ましい」と語ってくれた。
◆ライブハウスの音作り
100人規模の小さなライブハウスからアリーナやドームクラスのライブまでを担当する平川氏。音の聞こえ方はライブハウスの大きさによって適切な音量がそれぞれ決まっているという。それにも関わらずオーディエンスの歓声が聞こえないほど大音量で流すPAエンジニアも中にはいるのだそう。EQで歓声が聞こえやすくなる場合もあるが、基本的にはオーディエンスが不快に思わないレベルで調整することが一番。「どんなに音量が大きくても会話できるくらいの会場の音作り」を常に目指しているという平川氏。またオーディエンスの歓声を「最終楽器」と位置づけ、演奏の途中でプレイヤーの耳に歓声が聞こえるようコンソールをコントロールするのも大切とのこと。歓声が聞こえることでプレイヤーの演奏がさらに良くなることを平川氏は知っているのです。そういう意味では平川氏のようなPAエンジニアもアーティストの一人として捉えることができる。。
また会場が大きければ大きいほどほどお客さんが入った後、低音楽器が聞こえづらくなるのでそれを見越して調節することが大切だと指摘。逆に低音を出し過ぎると全体的に暗く聞こえてしまうのでそこにも注意を払う必要があるという。
オーディエンスに適切な音量でその楽曲に合ったサウンドを届けられるかはエンジニアの腕にかかっている。アーティストが聞こえている音と会場で聞く音は違う。またライブを見る場所によっても音の聞こえ方が違う。アーティストが希望する音とPAエンジニアが理想とする音との違いを埋めるにはコミュニケーションをとって改善していくしかないという。
◆海外の音量事情
日本と海外のPA事情で話題になるのが音量問題。アメリカやヨーロッパでは耳を大切にする文化が根付いており、爆音のライブの際は耳栓をするのが当たり前だという。日本人が聞くと海外でのライブのサウンドが小さいと感じる人が多いというから驚きだ。その点でも、耳のケアに関する平川氏の姿勢は本人が気づいていないことを教えてくれている。
平川氏からのアドバイスは以下2点。ひとつは普段、テレビや音楽を聞く時も出来るだけ音量を下げることで耳への負担を減らすよう心がけている。もうひとつは「季節の変わり目に耳鼻科で耳掃除をする」。耳掃除をする前後では音の聞こえ方が全く違うそうだ。個人差はあるだろうがぜひ試しに一度行ってみることをおススメする。
◆すべてはオーディエンスのために
フェスやライブが増えているこの時代、PAは音楽の良し悪しを左右する重要な役割を担っている。アーティストやバンドが奏でるサウンドの魅力をそのままオーディエンスに伝える。それはズバリ、PAエンジニアの腕にかかっているのだ。そのためには自分の耳を普段から大切にし、何よりもオーディエンスの立場で自分の良いと思った音を信じることが重要。平川氏は熱くそう語ってくれました。ライブで演奏する人にもPAの道に進む人にも、そして音楽を聴くことを愛する人たちすべてにとっても、平川氏の手法や考え方は学ぶべきことの多いセミナーだったと言えそうです。
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