世界的な注目を集めるバンド"ONE OK ROCK"や、サマソニ2018に出演が決定した "THE ORAL CIGARETTES"など、今の音楽界を扇動している数々の有名バンドのプロデュースを手掛けるA-sketchディレクター、伊藤一則氏が、「楽曲制作・ミックス」に焦点をあて、最強バンド・プロデュース法を徹底解説!
― まずは、伊藤氏の紹介から。
日本の大学卒業後、アメリカのオレゴン州立大学作曲学科で音楽を学ぶ。卒業後すぐに音楽レーベルに就職。担当したアーティストは、ジャニーズや中山美穂などアイドルや女性アーティストが多く、後に男のロックバンドを手掛けることになるとは当時は思ってもみなかったそう。
その後2004年、アミューズにレーベル事業部が発足するということで入社。
HEADSという中学生HIPHOPユニットが在籍しており、彼らが解散しその中の2人が新たにバンドを結成したのがONE OK ROCKだった。当時のライブに視察に行くと、バンドの演奏は散々だったものの、ボーカルがステージ根性もあり声も良く、これはやってみようということに。それが伊藤氏とONE OK ROCKの出会いだった。
その後、ONE OK ROCKの制作ディレクター、プロデューサーという立場で彼らと関わり、ボーカルTAKAの英語の発音を指導したのも伊藤さんだという。
― 現在はTHE ORAL CIGARETTESを担当。
彼らは去年、早くも武道館公演を達成。彼らとの楽曲制作のプロセスは?
2014年リリースの1st Sgで初めてディレクターとして担当。
THE ORAL CIGARETTES(以下 オーラル)というバンドをどういう風にやっていこうかと話し合いをしたときに、日本人のエンジニアを入れると当時人気のあった9mm parabellum bulletだったり、その辺のバンドの音に近くなってしまうのかなと思い、ONE OK ROCKの流れから関わりのあったアメリカ人エンジニアにお願いすることになった。
曲作りのプロセスとしては、まず彼らが練って作ってきた楽曲を聞かせてもらい、あーしたらこーしたらと話し合いながら完成させていく。
6月に発売した最新アルバムのサウンドの方向性としては、武道館公演後というのもあり、“ポスト武道館”というコンセプトでアルバム作りをしようと。武道館の次はやはりアリーナ。ライブハウス乗りの曲じゃなく、もっと「大観衆」とか「派手な照明」とか“踊れる”ことを意識したアルバムを作ろうというのが念頭にあったとのこと。
―今回のアルバムでは全トラックのMIXをアメリカ人エンジニアが行っているが、外国人エンジニアを多用する理由とは?
アメリカでは、全盛期には印税をとっていたようなエンジニアがいっぱいいて、曲のアレンジを勝手にしてくれた。シンセを足したり、言ってもないことをどんどんやっちゃう様な。オーラルの1st Sgのときは、イントロが長いと言って9小節ぐらい勝手にカットされたことも。
メンバーも始めは怒っていたが、最終的にはこれで行きましょうと、カットされたものが採用されたという。
伊藤氏いわく、アメリカはロックの先輩。エンジニアのアドバイスを聞くか聞かないかというのは、今後そのバンドの度量になっていくんじゃないかと。だからこそ、敢えて自由にエンジニアにやらせているという。
今回のアルバムの中で、U2やGREENDAYなどのMIXを担当し、グラミーを2回受賞しているトム・ロード・アルジというエンジニアが3曲ミックスしている。彼は、世界最高峰のマスタリングエンジニアのテッド・ジェンセンとのコンビネーションが素晴らしく、こちらからはこうしてくれだの、一切リクエストすることはなく、すべて二人に任せ、二人で完結し、マスタリング後の感動がものすごいと言う。
逆に、ONE OK ROCKのエンジニアとしてお馴染みのジョン・フェルドマンのアシスタントだったザック・サヴィーニは、ジョン・フェルドマンから受け継いだドラムのサンプルネタを多く持っているため、彼が色々やってくれるだろうという前提のもとお願いすることも。レコーディングもその前提で行い、余計なシンセを入れるのを控えたりもするという。
今回のアルバムの中で、音色も自由に、好きにやりたい様にやってもらった曲というのが「Ladies and Gentlemen」。さすがに手直しはしたものの、トム・ロード・アルジとは反対に、MIXの段階で文句の言えない音圧になっているため、MIX後の感動がものすごいのだ。
今回特別に、アルバム収録曲のうち3曲を、レコーディング後のラフMIX後、MIX後、マスタリング後、と3パターンの音を聞かせてもらった。
エンジニアの違いによって、あからさまに変化する音色が、3曲3様でとても興味深いものだった。
―ここまで伊藤氏と各バンドとの制作面でのプロセスを詳しく語ってもらったが、やはり伊藤氏の手掛ける最強バンド・プロデュース法の強みとしては、海外エンジニアを起用するところなのか?
バンドのキャラクターによってエンジニアを外国人か日本人か使い分けることもある。フレデリックは和製で完結してみようということで、日本人エンジニアを起用している。
ただ、海外のエンジニアはSPOTをつくのがすごく上手。聞かせどころをすごく鮮明にした上で、ちょっとだけ音を足したり抜いたりという様な作業を上手にしてくれるという。育ち方の違いもあるかもしれないが、日本のエンジニアだと、もともとある音を全部生かそうとしてしまう傾向があるとのこと。
極端な例だが、とあるアメリカ人プロデューサーいわく、LAの様な暑い場所で、窓を開けて走る車の中で音楽を聴くとき聞こえるのはスネアと歌しかないんだと。
それを聞いて以降、ドラムのサンプルと歌の処理、サビのフックのアタック感、そういうのにはかなり注力するようになったと語る。
そういった細かい音のコントロールや、英語と日本語を操る語学力やコミュニケーション能力含め、それらすべてが伊藤氏のバンドプロデュース力の強みなのだろう。
― 普段、制作を掛け持ちするアーティストは3~4組という伊藤氏。ファーストアルバムがオリコン初登場7位を記録した“フレデリック”との制作面での関わり方は?
フレデリックもオーラルに近い曲の作り方。主に曲を作るのはベーシストで、彼が作ってきた曲に対して、コードの組み方が違っているのを直したり、サビはこっちのコードの方が良くない?と提案したり。
サビが弱いなと感じてアドバイスするときには、具体的に例を出し、音楽的なアドバイスをする。
フレデリックはダンスミュージックに近い、80~90’sのニューウェーブっぽさを狙って作っているため、バンドではありながらも、バンドっぽさを出さなくてもいいなという時もある。メンバーだとその辺を俯瞰では見れないので、伊藤氏がもうちょっとシンセを足した方がいいんじゃない?とか、ベースはシンセの方がいいんじゃない?というような俯瞰から見た提案をしていくという。
あとは、レーベルの特色として、アミューズものは歌が強い音楽が良しとされているため、サビのボーカルの音圧に関してはかなり気を使っているとのこと。
歌をいかに分厚くするかを常日頃模索し、主メロを3本、上下2本ずつハーモニーを入れていくというのがよくやるやり方だという。自身でも歌を分厚くすることが伊藤氏のプロデュースとしての特徴の一つかもしれないと語っていた。
―最後に、ディレクターを目指す人に向けてアドバイスをもらった。
バンドは1st ALをリリースすると必ずスランプに陥る。それまでは若気の至りでバンド活動をしていたが、メジャーや事務所と契約すると、プロとして曲作りをしないといけなくなり、必ずスランプがくる。そのスランプをどう克服させるかが大事。ムチを打ち続けるやり方もあるが、伊藤氏流としてはムチよりもアメ。
アドバイスするときには、漠然としすぎると余計にわからなくなるので、この曲をこういう風にやってみたら?と、具体的に説明をしてあげるという。
アーティストによっては、人のまねをするのがイヤで、逆に発明をしようとするアーティストもいるが、それはもう絶対だめ。とにかく人のまねするのを気にならないようにしろと。誰かみたいって言われないとこの国では売れないよ、ということをしっかり伝え、曲作りに悩む子たちを一人でも救ってあげて欲しいと語っていた。
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