【イベントレポート】トップマスタリングエンジニア 酒井秀和氏が『現代的マスタリング手法』を徹底解説!

 通常、高価なアナログ機材を多く用い、エンジニアそれぞれの独自のシステムで行われる”プロ・マスタリング”。

今回はそのプロならではの手法やノウハウを活かしながら、いかに「デジタル領域」で、しかも「デスクトップ上で完結」できる手法論をどうやって構築していけばよいか。講師に、日本のトップマスタリングエンジニアの酒井秀和氏(Sony Music Studios Tokyo)を招き、現在広く発売されている代表的な“マスタリングソフト”<iZotope  Ozone8>を使用し、デモンストレーションを行いながら徹底解説した。



マスタリング作業は今までブラックボックスだと思われてきた節がある。だが昨今、優秀なマスタリングソフトが多数登場し、

中でもOzone>シリーズはそのブラックボックスを開ける挑戦をしてきた優秀なソフトであり、画期的なプラグインだ。

酒井氏ももちろん使用しており、自らのシステムでマスタリングした音源と、今話題のOzone8AI機能を使ってマスタリングした音源を聞き比べたりするなど、積極的に活用しているとのこと。

 

そもそもマスタリングとは、プロダクトのマスター(原盤)を作る作業のことである。

アルバムを制作する際は、色んなエンジニアが携わっているので曲ごとにレベルも違う。そのレベルを合わせるという根本的なことも含めてマスタリングという工程である。

最近はプロツールス内でデジタルミックスされたものが納品されるが、アーティストやディレクターの好みによっては一度アナログに戻し、音質的な好みに色付けし、最後にもう一度デジタルに戻す処理をしたりもする。

最近は技術も上がり、デジタルのみで処理を行う場合も増えてきたという。



今回は“Little Glee Monster”の音源を元に、実際にOzone8を触りながら音色の違いを解説していった。

 

まずOzone8は、EQやコンプレッサーなど10種類以上の機能の集合体として構成されている。


酒井氏のマスタリング考え方によると、まずは音色から決めていくとのこと。


例えば、テープのサチュレーション、ひずみ感などの音色が欲しい場合は、ビンテージEQなどのプラグインを最初に選択していく。酒井氏曰く、最初にMIX音源を聞き、ここが足りないな、ここをもっと上げれば魅力的になるな、というような第一印象から、ざっくりとパラメーターを変化させてゆくと良いとのこと。

 

次にコンプレッサー。コンプレッサーとは、波形の凸凹を全体的に馴らし、凹凸が無くなった分だけレベルを引き上げる作業のこと。コンプをかけると音が大きくなるといわれる所以はそういうことだ。

ここで、帯域別マスターコンプのちょっとした設定のコツを酒井氏が教えてくれた。

まず、低域は強めにコンプをかける。高域にむけてだんだん緩めにかけていくと楽曲がしまり、展開のメリハリがよく見えてくるとのこと。

 

次に、Ozone8特に優秀な機能として、ライブのPA等でも同様のプラグインが重宝されているダイナミックEQを紹介。

特定の帯域に対して瞬間的に落としてあげる帯域別コンプみたいなもので、Ozoneの中核になっている動作だ。単にEQで削ると こもった音になってしまうところが、うるさく聞こえる部分だけ処理できるので非常に有効的だという。



次にImager音源のステレオイメージをコントロールするプラグインで、こちらも帯域別にかけられるのが特徴。全体的にかけると顕著に広がるが芯がなくなり、中心の存在感がなく散漫な方向になる。ビートが強めのものや、なるべく中域から低域にかけてパンチのある音を出したい場合は、中低域をモノっぽくしてあげるとリズムが引き立つとのこと。

最終的に上記であげたような多種多様なプラグインを組み合わせながら、最後にLimitermaximizerをかまし、レベル設定を行っていく。

 

ここまでは色んなプラグインを駆使し、自分好みの音色にする手法を紹介してきたが、既存のプリセットも非常に優秀だ。世界の名だたるエンジニア風のプリセットが入っている為、それらを分析してみることで、彼らがどの様にマスタリングしているのか研究することも可能だという。著名エンジニアのマスタリング手法を知れるなんて、昔では考えられないことだったのだ。

 


最後にOzone8の注目の新機能「Master Assistant」という人工知能(AI)を用いた自動マスタリング機能を紹介。使い方は非常にシンプルで、マスタートラックにOzoneを挿した上で「Master Assistant」ボタンをクリックするだけ。あとは全部お任せでマスタリングしてくれる。イメージしているターゲットのところにきちんとあててくるので非常に面白い機能だと酒井氏は語る。

また、参考イメージ楽曲をリファレンスに読み込むと、その曲のマスタリングを自動的に分析し、同じ様に処理してくれたりもする。楽曲の合う合わないがあれど、とても面白い機能である。

 

一通りOzoneを使って解説した後、恒例の質疑応答タイム。

今回は自分でも自宅マスタリングを行っている上級者達からのリアルな質問が目立った。その中で初心者の方にもマスタリングの心得として覚えておいて頂きたい酒井氏からの回答が、“マスタリングに絶対的バランスは無い”ということ。

酒井氏曰く、手本にしているCDやお気に入りのCDがあるとそれに影響されてしまうので、来た楽曲に対してどのようなアプローチが良いのか、それぞれ方法論を考えるとのことだ。



今回のセミナーは、マスタリング初心者には少し難しい内容になったかもしれないが、Ozoneという有能なソフトを使い、いかにプロのマスタリングに近づけられるか、酒井氏ならではのちょっとした設定やコツを垣間見られたことで、今後自宅マスタリングの手法として、参加者にはぜひ参考にしてもらいたい。




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この記事を書いたのは

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